伝わる・揺さぶる!文章を書く

おお…。揺さぶられた!

伝わる・揺さぶる!文章を書く (PHP新書)

伝わる・揺さぶる!文章を書く (PHP新書)

略歴によると、筆者はベネッセで小論文通信教育について、企画・編集・プロデュースに携わったという。序盤、機能する文章を書くには論点を明確にすることが必要、と入り、中盤で依頼文、お詫び文等の書き方実践編といった展開が続く。なるほど「論点」というのは小論文の技法から生まれたおもしろい切り口だ。ピラミッド原則でもQとAを呼応させて文章を構成していくから、ピラミッドの頂点にあるQが「論点」でAが「意見」と考えると、これがはっきりさせることが文章を機能させるコツであるというのもうなずける。

しかし終盤になって気づいたのは、本書が単なる文章作成技法の枠を超えているということだ。

(P.221より引用)

<言葉という不自由な道具>
正直という戦略をとる。つまり、自分に忠実でありつつ、かつ人と関わることを目指す。
そのためには、厳しい文章術の鍛錬が必要だ。なぜなら、自分の正直な姿を表すところは、自分の中ではないからだ。自分の中ではない。紙の上でも、パソコン上でもない。「相手の中」だ。
ここに大きな壁が立ちはだかってくる。
(中略)
先日も、もう6年来のつきあいの大変信頼している友人と、こんな対立があった。
友人は「自立なんかしなくてもいい」と言い、私は「自立は必要だ」と言った。友人はとても優しい人なので口論にはならないものの、でも、静かに確信を持って、私もひかえめに、だが、小論文で鍛えた理屈で応戦し、対立の溝は深まっていく気がした。
これは、根本的な人生観とか、仕事観の違いなのだろうか? このまま険悪になってはいけないと引っ込めようと思ったが、でも、自分の考えを前に出すことが誠実さだと思い直し、どんどん空気圧が高まる中、やりとりを続けた。そのうちに、「あれ? 私の言ってることも、相手の言ってることも実はそんなに違わないのでは?」と思い始めた。
では、なんだろう? このモヤモヤと、わかりあえない空気の正体は?
それを考えていったら、文章の基礎的な問題に気がついた。…

文章について論じているようで、このくだりから感じるのは、筆者の人との関わり方、人生観への熱いこだわりだ。これは熱い。うわべだけの文章作成術を手に入れようとしていた自分が恥ずかしくなった。ううむ。